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「アトラス-迷宮のボルヘス」展とボルヘス夫人の講演会

 2010-04-29
  4月28日から、東京のセルバンテス文化センターで「アトラス-迷宮のボルヘス」展が開かれています。昨夜は、この記念講演とオープニングレセプションがあり、行ってきました。

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講演するマリア・コダマさん

 講演会では、ボルヘスの奥さんである日系アルゼンチン人のマリア・コダマさんが、ボルヘスと世界を回った思い出などを話し、ラテン文学の翻訳などで有名な野谷文昭氏も日本に来た時のボルヘスのことを話していました。

 実は、この会の前に、ボルヘスワークショップというのが行われていて、そこでもマリアさんが参加者の質問に答える時間をとっていただいたので、私たち参加者は、かなりの時間マリアさんとボルヘスについての話を聞くことができたのです。

 その話しの中で印象的だったのは、ボルヘスの考え方です。ボルヘスの父親にはイギリス、イタリア、ユダヤの血が流れていたことや、若い頃ヨーロッパで暮らしていたことから、インターナショナルな感覚が発達しており、偏狭なナショナリズムや特定の宗教、偏った思想を嫌ったそうです。

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ボルヘスとマリア・コダマさん


 実際、ボルヘスの作品を読むと、そういったことを感じることができます。アルゼンチン人ということでラテンアメリカ文学の範疇に入れられますが、作風としてはラテンアメリカ的なものは希薄で、ヨーロッパ的な感覚が溢れているように思います。それが、日本でボルヘスファンが多い理由かもしれません。ちなみに、ボルヘスはアルゼンチンの代表的な音楽であるタンゴもあまり聞かなかったそうです。

 面白かったのは、フリオ・コルタサルとの逸話です。コルタサルは、ラテンアメリカの中でも特に輝かしい才能を示した作家で、ボルヘスが大変に高く評価していたことが知られています。ボルヘスはコルタサルを可愛がり、コルタサルはこの大先輩の作家を尊敬していたのですが、やがて二人の仲は良好ではなくなります。

 それについての質問に対し、マリアさんは、二人の仲は決して悪かったわけではないとしながら、コルタサルがキューバのカストロに傾倒していったことで距離を置くようになったと説明しました。なにからも自由であることを熱望したボルヘスは、有能な若い作家が特定のイデオロギーに染まりすぎて自由な発想を失うことを懸念していたのでしょう。

 アルゼンチンからはキューバ革命の英雄チエ・ゲバラも出ていますから、コルタサルがカストロに傾倒したのは理解できます。彼の友人であったガルシア・マルケスも同じだったのですから。しかし、私にはボルヘスの洞察力が若いコルタサルを遥かに上回っていたと思います。

 「アトラス-迷宮のボルヘス」展は6月19日(土)まで開催されています。入場無料ですので、この機会にボルヘスの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

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