メキシコ大統領選を「日本的」に展望する
2012-06-26
メキシコの総選挙が7月1日に行われますが、この選挙の焦点はなんといっても大統領選挙です。近年、ラテンアメリカ諸国の大統領選挙では、左派が躍進し反米の機運が高まっています。一方、メキシコでは中道右派のPAN(国民行動党)がこれまで12年間にわたって政権を握り、米国と密接な関係を保ってきました。しかし、このところ国内の治安問題が政府の麻薬カルテル対策によって悪化するとともに、経済も世界経済の悪化の影響を受けて落ち込むといった問題が出ています。
このため、現政権PANの大統領候補は人気がなく、政権交代が確実視されている状況です。
メキシコ大統領選挙の公開討論会
この大統領選挙では候補者が4人います。与党PANは元教育大臣のホセフィーナ・バスケス・モタ(51歳)という女性候補を擁立。これに対し、12年前にPANに敗れたPRI(制度的革命党)は元メキシコ州知事で45歳という若手のエンリケ・ペニャ・ニエト候補、左派のPRD(民主革命党)は前回選挙で現大統領に僅差で敗れた元メキシコ市長のアンドラーデ・マヌエル・ロペス・オブラドール候補を擁立しました。もう一人、PANAL(新連合党)のガブリエル・クアドリ・デ・ラ・トーレ候補は泡沫候補扱いです。
メキシコは日本の政治状況と少し似ているところがあります。メキシコ革命後、長年にわたって政権を担当した党はPRIで、世界の主要な民主主義国の中で1つの政党が何十年にもわたって政権を独占しているのは日本とメキシコくらいだと言われました。ところが、1993年に日本で自民党政権が倒れ細川政権が誕生すると、メキシコの知識人たちは「今度はメキシコの番だ」と叫びました。
翌1994年に大統領選挙があり、左派グループは政権交代の好機と見たのです。実際、1994年の正月には、PRIが進めた北米自由貿易協定(NAFTA)発効に反対する反政府ゲリラ組織の武装蜂起が起こり、3月下旬にはそのPRIの大統領候補が暗殺されるという事件が起きるなど、メキシコの政治は混乱を極めました。
結果は、多くの人が予想したとおりPRIの強固な一党支配は変わりませんでした。しかし、この大統領選挙の際に初めて導入された候補者の公開討論で異変が起きていました。PRIの候補とそれに対抗するPRDの候補の論戦に期待した多くの聴衆の予想に反し、PANの候補の主張が多くの人の心を捉えたのです。
この3つの政党の立場を日本の政党に置き換えてみると、PANが自民党、PRIが民主党、PRDが共産党という感じになります。つまり、日本とは異なり、メキシコではなんだかやっていることがよくわからない民主党的PRIが長年政権を握ってきたが、それにあきあきしていた国民は、自分たちを豊かにしてくれそうな新自由主義の自民党的PANに魅力を感じたというわけです。実際、その6年後PANはPRIを破り政権を握りました。
さて、今回の大統領選挙で自民党的PANが窮地に立っている大きな理由は、政府が麻薬組織との対決姿勢を鮮明にしたことです。追い込まれた麻薬組織は逆上したのか、見境のない殺戮を繰り返し、国内の治安が恐ろしく乱れてしまったのです。国民はこれを現政権の政策の失敗と見ているため、他の政党への支持が集まりました。
現状では、与党PANのモタ候補が勝利する可能性は極めて低く、世論調査ではPRIのニエト候補がトップの支持を得ています。しかし、PRIが政権に返り咲くことには絶対反対という人たちも多いのです。日本でも、自民党には政権を渡したくないと考える人は多いと思います。その感情は似ています。
では、メキシコの知識人たちの多くが熱望するPRDのオブラドール候補が政権を奪取できるかとなると、かなり難しいでしょう。メキシコは米国と国境を接し経済構造は完全に米国頼みになっています。そのへんも日本と似ていますが、日本以上に米国と密接な関係を持っており、もし左派のPRDが政権を取れば、米国とのTPP(環太平洋経済協定)交渉参加もどうなるかわからず、メキシコ経済は大混乱に陥ります。
メキシコ人がそこまで覚悟してPRDを支持するでしょうか・・。自民党的PANから民主党的PRIへの政権交代なら、経済への影響はほとんどありません。結局、メキシコも日本と変わらないということになるのではないでしょうか。
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